喜美子(戸田恵梨香)は、武志(伊藤健太郎)が作った、生きている水が表現された器を眺めながら、「お母ちゃんの心、今、いっぱいや」と幸せそうに呟いた。NHKの連続テレビ小説『スカーレット』が最終週の初日を迎え、念願の作品を完成させた武志だが、同じ病気で亡くなった高校生からの手紙が、彼にやり場のない感情を吐露させる。
武志は大崎(稲垣吾郎)にも作品が完成したことを報告する。作品について語る武志の表情は明るくイキイキとしている。しかし、大崎に気になる症状を打ち明けたときや同じ病気を患っていた智也(久保田直樹)の母・理香子(早織)から「川原たけしさんへ」と書かれた手紙を受け取ったとき、すなわち、自身の病気と対峙する武志からはどことなく緊張感が漂っていた。
川原家では、武志の作品が完成したお祝いに、八郎(松下洸平)がはりきって卵焼きを作っていた。家族3人のやりとりは見ていて温かい気持ちになる。けれど、食卓を囲んでいたとき、武志は八郎に突っかかった。味がわからないことへの苛立ちをぶつけるだけでなく、陶芸に向かう父の姿勢をも非難した武志。しかし、それは武志が本当に伝えたかったことではない。
喜美子は武志から、智也からの手紙を手渡された。そこには「おれは」としか書かれていなかった。「書きたいこと、いっぱいあったんのやろな…。それが『おれは』で終わってんねんで」と話す武志は、涙をこぼしながらこう言う。
「俺は……終わりたない。生きていたい」
病気が発覚してからも、感情を爆発させることがなかった武志が泣きじゃくる。感じなくなった味覚と未完成の手紙、そして年の近い少年の死が、武志に「余命」や「死」を感じさせていた。涙を流す武志に、言葉をかけたくてもかけることができない、喜美子と八郎のやりきれない表情が印象に残る。けれど、泣きじゃくる息子を優しく抱きしめる母・喜美子と帰ってきた父・八郎の存在は、確かに武志の心を支えている。最終週のタイトルは「炎は消えない」。武志の「生きていたい」という強い思いは、消えない炎につながるはずだ。
片山香帆
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