ガツンとおいしい、テンションを上げてくれる、そんなワインも楽しいけれど、忙しかった1日の終わりにはホッとひと息つけるワインがほしくなる。東京・六本木で「マルズバー」を営む長谷川優さん、マダムでソムリエの規子さんにとっての「癒やしのワイン」とは?
今回のソムリエール
疲れたときに飲みたくなる1本
色や輝きを愛(め)で、香りを感じ、口に含んで味わって……。ワインはまさに「五感」で楽しむもの。中でも「香り」はワインの最初の印象を決める大切な要素だ。ブドウが持つ特有の香りが際立って感じられるブドウを「アロマティック品種」と呼び、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ピノ・グリ、ヴィオニエなどが挙げられる。その中でも規子さんが「癒やしのアロマを持つ」と評するのが、ゲヴュルツトラミネール。主にドイツやフランスのアルザス地方で栽培されている。
「ライチやバラなど甘く華やかな香りが特徴。『ゲヴュルツ』とはドイツ語で『スパイス』の意で、スパイスの香りも感じられます」と、規子さん。
疲れているときに飲みたくなる癒やしの1本としてセレクトしたのが、「ドメーヌ・アルベール・マン アルザス ゲヴュルツトラミネール」。
「洋ナシやオレンジ、熟したフルーツ、白いお花にスパイスの香りも。香りにも味わいにもほんのりとした甘さが感じられ、ホッと気が許せるワインです。アロマティックな香りにはリラックス効果があり、さらにワインの甘やかさが、疲れた心を癒やしてくれる」と規子さん。
軽めのチーズプレートと。チーズは「ブリア・サヴァラン・アフィネ」。白カビタイプ「ブリア・サヴァラン」を熟成したものが「アフィネ」だ。
「生クリームを添加して作られる、とてもリッチでクリーミーな味わい。シャンパーニュ、白、赤、ロゼとどんなワインとも合います。また、ハチミツやジャム、コンポートを添えれば甘口ワインとデザートに、香辛料やハーブを合わせれば前菜として楽しめる一皿になります」
今回はオレンジやデコポンを添えたさわやかな前菜を。アーリーハーベスト(=早摘み)のオリーブオイル、アクセントにクミンとホワイトペッパーを加えて。
「アロマティックで果実味豊かなゲヴュルツトラミネールには、スパイシーな要素もあり、クミンとオレンジとはとても相性がいい。ここにグリーンの香りと苦みを持つ旬のオリーブオイルが加わると、さらにワインの味わいが引き立ちます」と、規子さん。
アペリティフに最適だが、食後のまったりタイムにもピッタリのまろやか癒やしペアリング!
物語に思いをはせながら味わう、癒やしのワイン
さらにもう1本、優さん、規子さんにとって「特別な癒やしのワイン」を紹介してくれた。「ワインと、それを造る人が紡ぐ物語に思いをはせながら味わう。それが私にとって何よりの癒やしのひとときなのです」(規子さん)
アメリカ・カリフォルニア州を代表する銘醸地ロシアン・リヴァー・ヴァレーにある「ナカイヴィンヤード」。長谷川夫妻がこのワイナリーのワインに出会ったのは、今から15年ほど前のこと。試飲会でテイスティングしたときの衝撃をはっきりと覚えているという。
「あのころのカリフォルニアワインはとにかくパワフルで、樽(たる)香が強いワインが多かった。そんな中、ナカイヴィンヤードのワインは果実味が控えめでとても上品で、たちまち魅了されました」
その後、共通の知り合いが、生産者である中井章恵さんをマルズバーに連れてきてくれた。以来、帰国時に「中井さんを囲む会」を開催、15年以上続いているという。
東京で生まれ育った中井さんがアメリカへ渡ったのは1964年、24歳のときだった。「次男坊で家に居場所がなくてね。できるだけ遠くに行こうと思った」と、中井さんは自らの若き日に思いをはせる。ワインとは全く関係のない仕事をしていたが、趣味でワイン造りをするクラブで体験。「素人集団の中で僕のワインだけが飛び抜けていい出来だった。それでいい気になっちゃって」と笑うが、その後、農業学校の夜間コースでブドウの栽培を一から学び、1980年には畑を購入。ソーヴィニヨン・ブランを植樹し、機械修理工として働きながら週末は畑仕事に精を出した。するとそのブドウの質の高さが認められ、シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワールと畑を広げていった。
「僕は根っからの百姓。ワインは畑から始まり、畑で味を決めるもの。その思いでブドウに向き合い、ブドウの声を聞いている」。そう語る中井さんが手がけるワインは、舌においしいだけでなく、体が心地よさを感じるナチュラルなおいしさにあふれている。
規子さんは言う。「ワインはもちろん素晴らしいのですが、中井さんの生き方に憧れ、その心意気にほれました」。そして「癒やしワイン」として選んだ1本は「ナカイメルロー 2009年」。
「熟したベリーの甘やかで心地のいい香りに癒やされ、なめらかな口当たりと包み込むような優しい味わいにまた癒やされます」と規子さん。
合わせるのは、家庭のお総菜でもあるハンバーグ。「大人も子どもも大好きなデミグラスソースを、家庭でも簡単にできるアレンジでご紹介します」(優さん)
【ハンバーグ】
材料(4~5人前)
合いびき肉 600g
生パン粉 150g
牛乳 100cc
タマネギのみじん切り 400g
ニンニクのみじん切り 少々
ローリエ 2枚
卵 1個
塩 小さじ1と1/2
黒コショウ、ナツメグ 少々
マスタード、ブランデー 各小さじ1
サラダ油 各適量
【プルーン入りデミグラスソース】
種ぬきプルーン 100g
赤ワイン 200cc
水 100cc
デミグラスソース(缶詰などの既製品でOK)300g程度
作り方
1. フライパンにサラダ油を引き、タマネギ、ニンニク、ローリエを炒める。
2. 生パン粉に牛乳をなじませ、よくしぼる。
3. 大きめのボールに冷ました1、2、合いびき肉、卵、塩、コショウ、ナツメグ、マスタード、ブランデーを入れ、よくこねる。
4. 3のタネの4~5分の1を手にとって丸め、小判形に整えて、サラダ油を引いたフランパンで両面に焼き色がつくまで焼き、さらに250度のオーブンに移し10分ほど焼く。アルミホイルをかぶせると早く火が通る。
5. ソースを作る。厚手の鍋に種を抜いたプルーン、赤ワイン、水を入れ、よく煮る。
6. 5が半量以下まで煮詰まったら、デミグラスソースを加え、ミキサーでなめらかに。好みで塩、コショウ、砂糖で味を調える。
7. 焼きあがったハンバーグにソースをかけ、好みの野菜(調理済み)を添える。
「赤ワインで煮たドライプルーンを加え、ほんのりとした甘さと酸味のデミグラスソースに仕上げました。洋食の定番であるハンバーグとの相性はとてもいいですし、柔らかく熟した『ナカイメルロー』と合わせれば、穏やかでホッとできるペアリングが楽しめます」と優さん。
中井さんいわく、「僕のメルローはしょうゆを使った和風の煮物などとも相性がいい。うちでは牛すじの煮込みとよく合わせているよ」。
コロナ禍で昨年は栽培したブドウが売れ残ってしまったという。今年81歳の中井さん、「潮時も考えている」と吐露しつつ、しかし、次なる一歩は? と言葉を向けると、ワクワクするような答えが返ってきた。
「妻がほぼDIYで神奈川県の三浦半島にテイスティングルームを作っているのですが、ゲストに振る舞う泡があるといいなぁ、と。僕が栽培したソーヴィニヨン・ブランを使い、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵でスパークリングワインを造ってみようか――。そんなことを考えています」
ボトルの中には、また新しい「物語」が紡がれていく。
あなたにとっての「癒やしのワイン」とは? それを探す旅も楽しいかもしれない。
ドメーヌ・アルベール・マン アルザス ゲヴュルツトラミネール 2018年(希望小売価格3600円、税別)
「ドメーヌ・アルベール・マン」は17世紀にフランス・アルザス地方で設立されたワイナリー。テロワールの特性を最大限に表現するため、ビオディナミを実践。審査が厳しい「ビオディヴァン」にも認証されている。2012年度の「フランス最優秀生産者賞」を受賞するなど、国内外から高い評価を得ている。
詳細は、モトックスが運営するサイト「MOT! WINE(もっと!ワイン)」で。
ナカイメルロー 2009年(4000円、税込み)
ナカイヴィンヤードのメルローは1997年に植樹。2009年ヴィンテージは、中井さんが委託していた「リバーロードワイナリー」最後の醸造で、繊細で優しい舌触りに仕上がっている。まろやかなタンニンとバランスのいい酸が心地いい1本。
ナカイヴィンヤードのサイトから購入可能。
PROFILE
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