兵庫県内に出されていた新型コロナ対応の緊急事態宣言が解除され、1日から飲食店での酒提供が条件付きで解禁された。酒の提供は最大午後8時半まで可能となり、仕事終わりの一杯を提供してきた下町の「角打ち」にも2カ月ぶりのにぎわいが戻った。
神戸市兵庫区の市営地下鉄和田岬駅近くにある角打ち「ピアさんばし」。酒屋が店の一角で開く立ち飲み屋には、開店の午後5時前から常連客が集まった。
「おかえり」。3代目店主の三橋(さんばし)敏弘さん(67)がカウンターから迎えると、「久しぶり」「大丈夫だった?」と返ってくる。
海に近いこの地域には、三菱重工や三菱電機といった大手の事業所が集まる。「企業城下町」として、店もその恩恵を受けてきた。日が暮れると、多くの従業員らが立ち寄る。酒の「あて」は高いものでも400円弱。千円札1枚で1時間ほど、仕事の疲れを落として帰途につく。そうした客への配慮で、店内には和田岬駅の時刻表が太字で掲示されている。
仕事帰りに立ち寄った佐藤浩章さん(63)は「黙っていてもビールと芋焼酎が出てくる。店が再開して、『あーよかったな』と思いますよ」と笑顔になった。
三菱系の従業員が多く来るこの店で、ビールといえば同じ三菱系の「キリンビール」がよく売れる。酒屋の目利きで集められた日本酒めあての客も多い。10月1日はちょうど「日本酒の日」。三橋さんがこの日のために用意した酒は、広島の日本酒「うっぷんばらし」。
常連の堀口孝司さん(68)はいつも通りビール、日本酒、ハイボールの順で飲んだ。「外で飲むゆうのはやっぱり違いますね。顔見知りと何げない話をして飲む酒はおいしいですよ」。それを聞いた三橋さんは「笑顔で飲んでくれるだけでもありがたいわ」と返した。
新型コロナの急拡大で、市内の飲食店は8月2日から酒の提供禁止の要請を受けてきた。店の立ち飲みスペースもこの間、明かりを落とした。立ち飲みの売り上げに加え、酒屋としての近隣飲食店への小売りも止まった。要請に応じた飲食店に支給される協力金や、酒類販売事業者への支援金を受けるが、「以前のようにやりくりするにはほど遠い」と言う。
この日、店内は6時前には席がほぼ埋まった。
5時過ぎに来店した加藤正和さん(47)は「会話が飛び交って、うるさいマスターがいる。この雰囲気がいいんです」。仕事帰りに同僚と来店した中山陽介さん(42)も「こうして仲間と話しながら飲めるから仕事も頑張れる。ちょっとずつ安心して飲めるようになれば」と言うと、ビールをあおった。
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酒屋が店の一角で酒を提供する営業スタイルは「角打ち」と呼ばれる。
1925(大正14)年創業のピアさんばしが、角打ちを始めたのは30年以上前。仕事帰りに買った酒を店前で飲む人が増えたため、立ち飲みスペースを設け、「あて」を出すようになった。神戸小売酒販組合理事長でもある三橋さんによると、角打ちは市内に50~60軒あるという。
市によると、設備を設けて不特定多数の客に飲食させる場合、食品衛生法の飲食店営業の許可が必要だ。だが、角打ちの中には許可を受けていない店が少なくない。そうした店は、県のコロナ対応の要請に応じても協力金の対象外のため、不満が出ている。
三橋さんは「角打ちは大衆文化の一つで、酒屋のサービスの延長。飲食店営業許可についてあいまいなままきたのが、コロナ禍であぶり出されてしまった」と話す。組合では許可取得を促す講習を予定しているが、許可を受けるには設備面での基準などがあり、申請手数料もかかる。
角打ちの愛好家でつくる「神戸角打ち学会」の渡辺敏則会長(73)は「高齢で後継ぎもいないから、という理由で許可手続きを敬遠する店が多い。補償なきコロナ禍で廃業する角打ちが増えそうだ」と残念がる。(五十嵐聖士郎)
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