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Monday, April 25, 2022

18年間続いた物語の終わり――神永 学『心霊探偵八雲』完結記念インタビュー - カドブン

取材・文/タカザワケンジ  写真/川口宗道

心霊探偵八雲、ついに完結。

心霊探偵八雲12 魂の深淵が5月24日、ついに文庫化される。
実に18年間続いたシリーズを支え続けたものとは。
物語に投影された神永氏自身のトラウマ、人気キャラクターの作り方などたっぷりとお話しをうかがった。



▼『心霊探偵八雲』特設ページ
https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/yakumo/

▼『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み
https://kadobun.jp/trial/shinreitanteiyakumo12/8buwzln9jugw.html

神永学『心霊探偵八雲』完結記念インタビュー



――『心霊探偵八雲』シリーズ完結となる第12巻「魂の深淵」が文庫化されました。単行本は2020年に出ていますが、加筆された最終バージョンとなります。2004年に1巻(「赤い瞳は知っている」)が出てから18年。ついに完結を迎えたわけですが、書き終えていかがですか。

神永:いろいろ感慨はあるんですが……。言葉にするのは難しいですね。紆余曲折あり、ここまでの道は決して平坦ではなかったですね。


――自費出版された作品をベースに「心霊探偵八雲」シリーズが始まり、人気に火がついて映像化、舞台化、漫画化などメディアミックスされていったという経緯もドラマチックです。

神永:もっとこうしなくては、次はこれをやらなくては、という課題が山積みで、1個1個クリアしていかなくてはならなかった18年間でした。つねに自問自答しながら書いてきたので振り返る余裕はありませんでしたね。
 いまでも原稿を読み直すたびに、ここがだめだ、ここはもっとこうできるだろう、と書き直したくなるんですよ。自分自身としてはまだ小説家のレベルに到達していないとすら思います。やらなきゃいけないこと、果たさなければならない目標にはまだまだ到達していないな、と。
 それは僕が自費出版からスタートしたからこそ持っている意識だと思います。普通の作家さんは賞をとってデビューしますよね。僕の場合は、賞のお墨付きがないので自分でがんばるしかないんです。小説家として認められる作品を書かなくては、と思いながらこれまで執筆してきました。
 ですから、八雲シリーズの1巻と12巻を比べると、自分で言うのもなんですが、だいぶ上手くなっていると思います。12巻も単行本から文庫にするにあたって加筆しています。もっと面白くできるはず、まだ作品の質を上げられるはずだと思うからです。

自身のトラウマを投入


――「心霊探偵八雲」シリーズの主人公、斉藤八雲は大学生。赤い左眼を持ち、その眼で幽霊を見ることができます。シリーズでは彼がさまざまな事件を解決していくのですが、彼自身は孤独な人生を送ってきました。その彼が小沢晴香という同じ大学の学生と出会い、少しずつ変わっていきます。

神永:八雲シリーズに込めた思いの一つが「人は人との出会いで変わっていく」ということです。
 八雲は自分の出生を呪い、自己の存在そのものを否定している人間です。それは僕自身の幼少期からの体験と結びつく部分があり、意図していたわけではないのですが、気がつくと自分自身のトラウマを作品に投入していたような気がします。
 八雲には雲海という父親がいますが、八雲にとって雲海は理解不可能な存在であり「敵」ですらある。その関係性は、僕の心の奥底にある感情と合致します。そのほかの登場人物たちの関係性にも、自分が経験してきた人間関係が濃縮されているような気がしますね。
 誰でも幼少期から思春期にかけて、親との葛藤があったり、人間関係で悩むことがあると思うんですよ。しかし、人と出会うことで変わったり、成長できる。足りないものを持った者同士が補い合うことだってできる。それも僕自身の体験から得られた実感です。
 八雲シリーズを書くことで僕自身が変わってきた部分もあります。1巻の頃は両親のことが理解不可能だったんですが、12巻を書き終える頃には少しは理解できたような気がしました。自分の感情を昇華することで、理解できるところも出てきたのかなと思います。


――そのためには12巻という長さが必要だった。

神永:必要でしたね。本当は10巻で終わらせるつもりだったんです。9巻で八雲が左眼を傷つけられ、10巻で……という流れはイメージとしてあったので。ところが、自己否定をしていた八雲が自分を受け入れ、自分の足で歩き始めることはそんなに簡単ではありませんでした。悩んで、苦しんで、ようやく12巻で終わったということです。



キャラクターのつくりかた


――9巻からは、大きな流れをかたちづくるとともに、複数の事件が同時進行する複雑なストーリーとなっています。そのうえで読者を驚かせ、引っ張っていくのは大変だったと思うのですが。

神永:大変でしたね。うちの事務所のスタッフにもよく相談しました。「こういうのはどうだろう?」と、突然、思いついたアイデアを話し出したりして、迷惑をかけたと思います(笑)。第1稿として編集者に渡す前に書いたバージョンが三つ、四つありましたから。
 うちの奥さんに言わせると、追い詰められてくると寝ている間にずーっとしゃべってるらしいです。はっきりした口調で。奥さんは慣れっこで「あ、始まった」と思うみたいですけど(笑)。


――物語の中に没入しているんですね。

神永:そうでしょうね。スマートトラッカーをつけてるんですけど、そういう時の睡眠時間はせいぜい1時間。寝ているつもりでも、脳はずっと動いている状態なんですよね。もっとサクっと書けるようになりたいんですが(笑)。
 それに、書き終えてからも気持ちが抜けるまで大変なんです。すごく苦労して生み出した作品なので、書いた後も引きずるんですね。全力で書いたけれど、読者にはどう受け入れられるのか。そんなことを気にしてはいけないんですが、今回はとくにシリーズ最終巻なのでどうしても考えてしまいます。


――八雲シリーズでは、八雲と晴香の周りにいるキャラクターが重要な役割を果たしています。とくに12巻では晴香が昏睡状態。八雲が単独行動をとるため、ほかの登場人物たちが独自に事件解決に動きます。とくに石井雄太郎刑事の活躍が印象的でした。

神永:僕が書くキャラクターにはだいたいモデルがいて、実在の人をベースに考えているんですよ。
 そのために人と会って話すことが大事なんです。「取材させて」と言って──といっても雑談なんですけど──その人のくせ、しゃべり口調、考え方、価値観を吸収するんです。それを持ち帰ってキャラクターにする。「取材」の時に気をつけているのは、相手の言うことをすべて肯定すること。「それは違うんじゃない?」と言ったら価値観のぶつかり合いになってしまい、相手の価値観を吸収できなくなってしまうので。
 「八雲」の初期に出てくるキャラクターは、僕のサラリーマン時代の友人・知人が多いですね。石井雄太郎は同姓同名のモデルがいます。実際にすぐに転ぶ人で、なんでここで転ぶかなあ、というところでコケる。それはそのまま採り入れさせてもらっています。


――八雲と晴香にもモデルはいるんですか。

神永:あの2人にはとくにモデルはいません。小説の構成上の必然から生まれたキャラクターです。
 まず八雲を考えたんですが、両親との関係に激しい葛藤があり、幽霊が見えて、片眼が赤い子供が周囲からどんなふうに扱われるだろう。かなりつらい少年時代を送るはずだ──それでああいうひねくれた性格の大学生になったんです。
 一方、晴香はトラウマを抱えているんですが、それ以外は両親から愛されて育った平凡な大学生。女性からも応援してもらえるようなキャラクターにしたかったので、気をつけたのは彼女を性の対象として見られるような存在にしないことです。ただ、彼女の成長も描きたかったので、1巻ではあえて子供っぽさを前面に出しました。そうしたらなかなか評判が悪くて(笑)。でも、晴香も八雲とともに成長していってくれたと思います。

八雲と美雪。最後の戦い


――12巻の「魂の深淵」で中心となっているのは、八雲と宿敵・七瀬美雪の対決です。ホームズとモリアーティ教授の対決を思い起こさせますが、美雪という絶対悪の存在はどのように生まれたのでしょうか。

神永:八雲の父、雲海はもういませんから、雲海に育てられた美雪が八雲の最大の敵になる。それは9巻から決めていたことで、ラストまでイメージできていました。
 美雪は八雲の対となる存在のため、どのような人物にするかにはそれほど悩みませんでした。読んでいただければわかりますが、2人の境遇や生い立ちには共通点が多い。でも、立っている場所が正反対になっています。なぜ2人は正反対の場所にいるのか。2人が対決することにどんな意味があるのか──そこに八雲シリーズで伝えたかった最後のメッセージがあるような気がします。
 実は、僕の読者から「生きているのが苦しい」「いなくなってしまいたい」というお手紙をいただくことがあるんですね。若い世代でそういう思いを抱えている人は少なくないと思うんです。僕自身も思春期の頃を振り返ると、辛い思いをした経験が蘇ってきます。
 でも、その当時、救いになったのが現実を忘れさせてくれる小説や映画などのフィクションでした。『心霊探偵八雲』を読んだ読者が1人でも多く現実を忘れ、物語に救いを感じてくれたら嬉しい。本を閉じた時、がんばろう、と思える作品を残したい。それが僕の目標なんです。



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プロフィール

神永学(かみなが・まなぶ)
1974年山梨県生まれ。2004年『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』でプロデビュー。同作から始まる「心霊探偵八雲」シリーズで人気を博す。他の作品に「怪盗探偵山猫」「確率捜査官 御子柴岳人」「浮雲心霊奇譚」「悪魔と呼ばれた男」などのシリーズ、『コンダクター』『ガラスの城壁』などがある。
神永学オフィシャルサイト(https://kaminagamanabu.com/
小説家 神永学Twitter(@kaminagamanabu

心霊探偵八雲」シリーズのあらすじ漫画



大人気スピリチュアル・ミステリ 神永学「心霊探偵八雲」シリーズのあらすじを泥川恵がコミカライズ!
https://kadobun.jp/feature/readings/7x39b3xl6zs4.html

完結巻!『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み



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