Pages

Thursday, August 18, 2022

【家族がいてもいなくても】(746)終わりよければ、すべて… - 産経ニュース

家族がいてもいなくても

イラスト・ヨツモトユキ

原っぱで野外人形劇の舞台を作り始めた。

目下、お天気は、梅雨のような、夏のようなで落ち着きがなく、木も花も虫たちも混乱気味。

それでも、舞台づくりでこちらの気分は急上昇。なにを見てもウフフ、と笑えてきてしまう。

この日は、原っぱプロジェクト事務局のタロウさんが、一番乗りでやってきた。

彼は、この夏、上演予定の野外人形劇「うりの小さな話」の音響を担当している。

ヘビが出てくる衝撃音やらスズメバチの襲撃音、さらに背景に流れる音楽を編集してくれた。

原っぱの活動をユーチューブで発信してくれてもいる。

むろん、この高齢者住宅に来て、こんなことをするとは、思ってもみなかった80代だ。

その彼が、なにかにつけ「ここは、天国だなあ」なんて言う。

私としては、「どんな人生を送ってきたのよ」と、つっこみたくなるが、彼がそう言うのならきっとそうなのだろう、という気もしてくる。

そして、午前10時。原っぱには、緩やかな坂を下ってシニア人形劇チームのメンバーが集まってきた。男性5人、女性6人。

みな、なにかと忙しくしている人たちなので、なかなか集まれないとは覚悟しているが、来てくれるとやはり、うれしい。

予定の野外舞台は、高さの違う5つのプランター付き木製フェンスを使って作る計画だ。

そのフェンスを当日までに本物の笹や、つる草や雑草や草花で覆う。

つまり、原っぱに原っぱを作っちゃおう、というつもり。

本物の大きな松の木には毛糸で編んだクモの巣をかけ、スズメバチの作り物の巣もかける。

演出担当の私としては、向かいの牧草地の空へと続く風景を借景に、最後にきれいな布を何枚も飛ばしたい、と思っている。

ともかく、私は知っている。

仲間の彼らは、それぞれに、さまざまな仕事や人生を経てきた人たちだ、ということを。

あの彼女は、ショーウインドーのデザインをやっていたはずだし、あの彼は大きな原っぱに置く机を一日で作ってくれたし、とか。

この野外舞台のプランターに、いろんな植物を生けこみ最終仕上げをしてくれる彼女も、素晴らしいガーデナーである。

そんなわけで、こんなことをして無邪気に遊びつつ晩年を送れたら、いいなあと思う。

終わりよければ、すべてよし、そんな心境に至るに違いない、と。

(ノンフィクション作家 久田恵)

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 【家族がいてもいなくても】(746)終わりよければ、すべて… - 産経ニュース )
https://ift.tt/u0pvxa8

No comments:

Post a Comment