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Thursday, August 25, 2022

バブルはもう終わり? SaaSスタートアップがいま知りたい資金調達の基礎知識 新局面の戦い方は - ITmedia NEWS

 拡大が続くSaaS市場。業績を伸ばすスタートアップも複数生まれ、数十億から百数十億規模の資金調達に成功する企業も続々と出てきている。一方、資金調達などSaaSスタートアップの“お金まわり”を巡っては、ここ1〜2年である変化が起こっているという。

 「1〜2年前はSaaSがもてはやされていたが、雰囲気が一巡した。すでにSaaSだけで熱量が高まる感じではなくなってきている。簡単にいえばバブルみたいな状況だったが、今は投資家も冷静に判断しており、選別が進んできている」──過去に外資系の投資銀行に勤め、現在はアプリ開発プラットフォームを提供するヤプリでCFOを務める角田耕一さんは、SaaS企業の資金調達を巡る動向についてこう話す。

photo ヤプリの角田耕一CFO

 とはいえ、サブスクリプションでのサービス提供が当たり前になった今、ソフトウェアを提供する上で、SaaS型を検討するのは避けて通れない道になりつつある。SaaSスタートアップのお金まわりを巡る風向きが変わる中、これからSaaSビジネスを立ち上げる人が押さえておきたい基礎知識を角田CFOに聞く。

「SaaSは圧倒的な先行投資型」 “SaaS以外”との大きな違い

 SaaSスタートアップの資金調達についてはまず、SaaS以外を扱う企業と比べて、売り上げの立ち方が異なる点に注意が必要という。売り切り型のソフトウェアに比べ「先行投資型で、プロダクト開発する時間もかけつつ、その後に売り上げもリカーリング(継続的に収益をあげるビジネスモデル)でじわじわ伸びていくのが大きな特徴」と角田さん。

 しかしこの場合、直近の実績や過去の実績を投資家や銀行に説明しにくくなる。理解のある投資家も出てきているものの「圧倒的な先行投資型なので、成長フェーズだとコストをかければかけるほど赤字が増え、効率が悪いように見える」という。

 サービスの利用料金によっては、数万から数十万円規模の売り上げを積み上げていくことになる可能性もある。そうすると、タイミングによっては進捗が順調でないと捉えられやすく、売り上げなどの数字で実績を見せるのが難しくなってしまう。中でも銀行などの金融機関は、キャッシュフローや返済の蓋然性をより重視することから、その傾向が強くなりがちという。

銀行にもエクイティと同じ説明を 必要なのはコミュニケーション

 対策としては、投資家や銀行とのコミュニケーションが挙げられると角田さん。エクイティファイナンス(原則として返済に期限がない、株式を発行して資金調達する方式)の投資家に向けたアプローチを、銀行などに向けても行うべきという。

 「エクイティで付き合う投資家向けには、資金調達のないタイミングでも情報を共有するなどして、成長性を伝える人も多い。一方で銀行向けに行っている人はほとんどいない。しかし、銀行とデット型(資金の返済義務がある借り入れ型の方式)でも非常に重要。銀行だからと言って、定性的な成長性の話を省く必要はない」

 実際、ベンチャーキャピタルの中には、ベンダー側の許可を得た上で顧客にインタビューして評判を聞き出し、出資を判断するところもあるという。現状の解約率が一過性の数字ではないか、顧客の評価を基に判断したいからだ。このとき、定性的な評価が伴っていれば、低い解約率に再現性があると判断されやすくなるという。

上場後を見据えたファイナンスの重要性 激動のSaaS市場での戦い方

 注意すべき点は他にもある。その一つが上場に対する考え方だ。「未上場の人はIPOまでのファイナンスとIPO後のIRを区別して考えがち」と角田さん。しかしこれらは地続きで、それぞれに対し、会社のファイナンスを分断するものと捉えるべきではないという。

 「本来は『上場後にこうなるから、上場直前や未上場のときのファイナンスはこうだよね』という逆算ができる。しかし中にはIPOをゴールと考え、そこから逆算してファイナンスを組み立てて、上場後は“出たとこ勝負”という人もいる」

 IPO前後を地続きに捉えるべき理由は、SaaS企業を巡る投資市場の現況にある。日本において、SaaS企業が上場し始めたのはここ数年の話だ。つまり現状は過渡期といえる。

 そのため上場後の資金調達を巡る環境も目まぐるしく変わっており「未上場の目線のまま行くと、上場後に全く違うルールのゲームの洗礼を受ける」(角田さん)。上場後を視野に入れておかなければ、無理をしたときのしわ寄せがいつ来るか、判断しにくくなるという。

 「ファイナンスはどこかで分断されているわけではなく、全部がつながっている。IPOが遠ければ遠いほど関係ない部分もあるが、その場合も距離が遠いから修正が効くという話であって、とにかく地続きなのは変わらない」

未上場/上場後のファイナンスの違い 角田さんの見てきた失敗例

 実際、未上場時と同じ感覚で上場して失敗した例を、角田さんも見たことがあるという。これらの失敗には共通点があった。それはエクイティファイナンスにおける未上場時と上場時の資金調達の方法の違いだ。

 「未上場までは基本、発行体(企業)の言い値。発行体が100億を提示して、リード投資家がOKといえば成立する。一方で、上場株は大多数の株主からOKをもらわないといけない。未上場のときは『この人が100億でいいといってました』という状況でも、上場後は他の人も同意を取れる額でないと収束しない」

 この事情を踏まえ、上場時の株価が大多数の株主に受け入れられるのか、未上場時にも意識しておかなければならない。そのためには、未上場時から上場後を見据えた考え方が必要になるわけだ。

 「本来SaaSのみに限った話ではないが、今の環境においてはSaaSが特にこの辺りの調整を求められるので、特に理解が必要と感じている」(角田さん)

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