政府が東京都に4度目の緊急事態宣言を発令する。宣言期間は東京五輪の開催期間と丸かぶりで、感染拡大防止のための最終手段というより、何がなんでも五輪を開催するための宣言なのは見え見えだ。これが安倍晋三前首相、菅義偉現首相が再三繰り返してきた「人類がコロナに打ち勝った証しとしての五輪」と言えるのか。今、最も効果的な感染防止策は「五輪中止宣言」ではないのか。(大平樹、榊原崇仁)
◆「言い出しっぺ」は安倍前首相
五輪を「コロナに打ち勝った証し」と言い始めたのは、安倍晋三前首相だった。昨年3月16日の先進7カ国(G7)首脳とのテレビ電話会議で、併せて「完全な形で実施したい」と述べ、各国の支持を得たという。安倍氏は同月23日の参院予算委員会でも「全ての参加国が万全な状態で参加できることが重要だ」「(コロナを)克服した証しとして五輪を開催したい」と述べた。五輪の1年延期が決まったのは、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話会談した翌24日。同日の会見でも「打ち勝った証しとして」と発言した。
後を継いだ菅氏も昨年10月、国会での所信表明で「人類がウイルスに打ち勝った証しとして(五輪を)開催する決意だ」と語った。今年3月21日の自民党大会でも同じフレーズを繰り返した。4月の日米首脳会談では使わず、「世界の団結の象徴」に表現を変えたが、帰国後、このことを衆院本会議で野党議員に追及されると「打ち勝った証しとして五輪を実現するとの決意に何ら変わりない」と答えた。
安倍氏が言い出した昨年3月は、国内の1日当たりの新規感染者数が2桁で推移していた時期。振り返ると、まだ楽観論もあった。大阪大発の医療ベンチャー「アンジェス」が同月、国産ワクチンの開発着手を発表。早ければ昨年中に実用化され、今夏に接種が行き渡る観測が出ていた。新型インフルエンザ治療薬「アビガン」が新型コロナ肺炎の特効薬になるとの期待もあった。
◆実現しなかった感染防止「楽観プラン」
一方、政府は当初から、PCR検査を抑えつつ濃厚接触者をたどるクラスター対策に重点化。各国で爆発的に患者が増える中、患者数を比較的抑えた時期でもあった。安倍氏は昨年5月、最初の緊急事態宣言解除を決めた際の記者会見で「わずか1カ月半で流行をほぼ収束させることができた。『日本モデル』の力を示した」と胸を張った。
しかし、楽観プランは現実にならなかった。アンジェスのワクチン実用化は来年以降になる見通しが強まっている。政府は米ファイザー社など海外製薬会社製ワクチンの確保も手間取り、接種ペースは先進国の中でも遅れが目立つ。接種に当たる地方自治体からは供給不足に恨み節が上がる。
昨秋から年明けにかけては患者数の1000人超が常態化した。政府が東京など1都3県に2度目の緊急事態宣言を出したのは、今年1月7日。それから半年で、まん延防止等重点措置の適用と宣言再発令を2度繰り返す事態に陥っている。
緊急事態宣言下の五輪は、むしろ「コロナに打ち勝てなかった証し」ではないのか。首都圏の複数の医療機関で在宅医療を中心に手がける木村知医師は「現状でコロナに打ち勝ったと言える要素はない。菅氏は、五輪を開催しても爆発的に患者が増えなければ、勝ったと言うつもりなのだろうか。緊急事態宣言を出すほど感染者が増えているのに、リスクを増やす五輪を開催するのは意味が分からない」と憤る。
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政府が東京都に4度目の緊急事態宣言を発令する。宣言期間は東京五輪の開催期間と丸かぶりで、感染拡大防止のための最終手段というより、何がなんでも五輪を開催するための宣言なのは見え見えだ。これが安倍晋三前首相、菅義偉現首相が再三繰り返してきた「人類がコロナに打ち勝った証しとしての五輪」と言えるのか。今、最も効果的な感染防止策は「五輪中止宣言」ではないのか。(大平樹、榊原崇仁)
◆「言い出しっぺ」は安倍前首相
五輪を「コロナに打ち勝った証し」と言い始めたのは、安倍晋三前首相だった。昨年3月16日の先進7カ国(G7)首脳とのテレビ電話会議で、併せて「完全な形で実施したい」と述べ、各国の支持を得たという。安倍氏は同月23日の参院予算委員会でも「全ての参加国が万全な状態で参加できることが重要だ」「(コロナを)克服した証しとして五輪を開催したい」と述べた。五輪の1年延期が決まったのは、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話会談した翌24日。同日の会見でも「打ち勝った証しとして」と発言した。
後を継いだ菅氏も昨年10月、国会での所信表明で「人類がウイルスに打ち勝った証しとして(五輪を)開催する決意だ」と語った。今年3月21日の自民党大会でも同じフレーズを繰り返した。4月の日米首脳会談では使わず、「世界の団結の象徴」に表現を変えたが、帰国後、このことを衆院本会議で野党議員に追及されると「打ち勝った証しとして五輪を実現するとの決意に何ら変わりない」と答えた。
安倍氏が言い出した昨年3月は、国内の1日当たりの新規感染者数が2桁で推移していた時期。振り返ると、まだ楽観論もあった。大阪大発の医療ベンチャー「アンジェス」が同月、国産ワクチンの開発着手を発表。早ければ昨年中に実用化され、今夏に接種が行き渡る観測が出ていた。新型インフルエンザ治療薬「アビガン」が新型コロナ肺炎の特効薬になるとの期待もあった。
◆実現しなかった感染防止「楽観プラン」
一方、政府は当初から、PCR検査を抑えつつ濃厚接触者をたどるクラスター対策に重点化。各国で爆発的に患者が増える中、患者数を比較的抑えた時期でもあった。安倍氏は昨年5月、最初の緊急事態宣言解除を決めた際の記者会見で「わずか1カ月半で流行をほぼ収束させることができた。『日本モデル』の力を示した」と胸を張った。
しかし、楽観プランは現実にならなかった。アンジェスのワクチン実用化は来年以降になる見通しが強まっている。政府は米ファイザー社など海外製薬会社製ワクチンの確保も手間取り、接種ペースは先進国の中でも遅れが目立つ。接種に当たる地方自治体からは供給不足に恨み節が上がる。
昨秋から年明けにかけては患者数の1000人超が常態化した。政府が東京など1都3県に2度目の緊急事態宣言を出したのは、今年1月7日。それから半年で、まん延防止等重点措置の適用と宣言再発令を2度繰り返す事態に陥っている。
緊急事態宣言下の五輪は、むしろ「コロナに打ち勝てなかった証し」ではないのか。首都圏の複数の医療機関で在宅医療を中心に手がける木村知医師は「現状でコロナに打ち勝ったと言える要素はない。菅氏は、五輪を開催しても爆発的に患者が増えなければ、勝ったと言うつもりなのだろうか。緊急事態宣言を出すほど感染者が増えているのに、リスクを増やす五輪を開催するのは意味が分からない」と憤る。
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