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Wednesday, January 19, 2022

追悼。ギャスパー・ウリエルの名作『たかが世界の終わり』を今一度。(Toru Mitani) - VOGUE JAPAN

ドランはゲイであること、母親とのつながりを繰り返し作品に投影している。むしろ、主軸と言えるだろう。そのドランが憑依しかかのような、ギャスパーの繊細かつエモーショナルな表現力。以前、ギャスパーにインタビューをした際に彼はこんなことを言っていた。「内面的には僕はドランより安定はしていると思う。でも、もちろん彼と同様にもろく繊細な部分はある。皆が思うほど自信家ではない」。会ってみた印象としては、スクリーン上で見るよりも堂々としていた。そんな彼が、自らのもろさや弱さを抽出しながら“演技”として押し拡げる作業がどんなものなのか。とても興味が湧いたのを覚えている。

2016年のカンヌ国際映画祭にて。左から、ギャスパー、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、グザヴィエ・ドラン、ナタエリー・バイ、ヴァンサン・カッセル。 Photo: Luca Teuchmann/Getty Images

とにかく、今作のギャスパー・ウリエルはものすごい。常に顔にフォーカスしたアングルで、終始、彼の瞳の湿度だったり、乾いた吐息だったり、怒りや憂いがほとばしる。具体的に過去が描かれていなくても、眺めている内にさまざまなことを想像させてくれる。母親とふたりきりで薄暗い部屋でのシーンなんて、涙無しでは観られない。きっと、どんな人でも不思議とギャスパー演じるルイの痛みと呼応していく。スクリーンいっぱいに映し出された、低音で深く底へ広がる声、美しくも憂いのある表情を今も忘れることはできない。

フレグランス「ブルー ドゥ シャネル」のイメージキャラクターを務めるなど、シャネルとの親交も。 Photo: Stephane Cardinale - Corbis/Corbis via Getty Images

今確認したところ、『たかが世界の終わり』はストリーミング配信が終了しているようだ。DVDをレンタル、もしくは購入しなければ鑑賞できないのでややハードルが高くなるが、今作はこのタイミングでぜひ鑑賞していただきたい名作。彼が刻んだ99分を再度堪能していきたい。

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