ロシアによる侵攻を受けたウクライナ情勢が、地球のほぼ裏側にある遠く離れた台湾を大きく揺さぶっている。
23年前『歴史の終わり』という論文で自由主義勢力の勝利を宣言した米政治学者フランシス・フクヤマが、ロシアのウクライナ攻撃が始まった直後の2月26日、台湾の大学が開催したオンライン講演で力を込めて語った。
「ロシアのウクライナ侵略はリベラルな国際秩序に対する外部からの脅威であり、全世界の民主政治体制は一致団結して対抗しないとならない。なぜならこれは(民主体制)全体に対する攻撃だからだ」
蔡英文総統は米国のマレン元米軍統合参謀本部議長ら会談するなど、ウクライナ情勢に対して動きを見せている(Taiwan Presidential Office/AP/アフロ)
『歴史の終わり』(三笠書房)は、グローバリズムの影響のもと、世界は民主化と市場化に向かい、歴史の変化は終着点に達する、と論じたものだ。
本来のフクヤマの議論からすれば、今回のウクライナ出兵は予想外のものであり、民主主義の拡張と経済相互依存が世界を支配するという未来への想像を打ち砕くものだった。
ただ、フクヤマは2015年ごろから主張を修正し、中国による科学技術を駆使した高いレベルの権威主義体制には成功のチャンスがあり、「自由主義世界にとって真の脅威になる」とも述べていた。
フクヤマは今回の講演のなかで、台湾に対する中国の武力行使は、近年の国際環境の変化とウクライナ情勢によって「想像できない事態から想像しえる事態になった」とし、ウクライナと比べると台湾は自ら戦う決意が弱いように見えており、「もしも自らのために戦わなければ、台湾は米国が救いにくると期待することはできない」と述べた。これは台湾への叱咤激励であり、警告でもあった。
台湾の世論調査では、6割以上の人は台湾が侵略を受けた場合は武器を取って戦うと答えている。一方、台湾社会は、世界が心配するほどには、中国の武力行使を不安視しない傾向があった。
台湾民意基金会の昨年の世論調査では中国による台湾侵攻が将来起きるかどうかについて「そう思わない」と答えた人が64.3%にのぼっている。それは1949年以来、70年以上にわたって中国との緊張関係にある台湾では「現状維持バイアス」が働いているためと見られてきた。
実際に台湾の自己防衛の決意がどこまで強いか、それは「その日」が来るまで本当のことはわからない。ただ、台湾人がウクライナに自分たちの姿を重ね合わせたことは間違いない。
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