「ウェブ3(Web3.0)」は、メディアに登場するご意見番やテック伝道者たちが、テック発展の至高目標と考えるもののリストに新しく仲間入りした言葉だ。「新しいインターネット」やキラーアプリの可能性が、大いなる興奮と熱狂を生んだ。
これは逆に、劇的な落胆の舞台もお膳立てすることとなった。今年に入って、有名なトークンの暴落やNFT(非代替性トークン)市場への関心の弱まりが見られ、競争の激しいメタバースの分野では、そもそもどんなものを提供するのかについて、模索が続いている。
このような混乱を受けて、コメンテーターたちは早くも、ウェブ3の早過ぎる死を宣告。ツイッター創業者のジャック・ドーシー氏は、「一段と分散化」した「ウェブ5」を発表した。
落胆を超えて
しかし、ウェブ3がもたらすソリューションが始動し始めたばかりなのに、性急に見切りをつけてしまうのは、間違いだろう。
ウェブ3という言葉はあまりに自由気ままに使われているので、まずはその意味をしっかり確認しておこう。
ウェブ2はテック大企業がコントロールする中央集権型プラットフォームを特徴としているのに対し、ウェブ3はセキュリティ、プライバシー、効率性を内蔵し、データや価値の交換の新しい手段を可能にする様々なテクノロジーやサービスを指す。自らのデータサイロ、セキュリティ、ポリシーを持つ企業、個人、デバイスのネットワークが、まったく新しい方法でデータをやり取りできる、ということだ。
ウェブ3の中核は分散化にある。ウェブ3を可能にするテクノロジーは主に、ブロックチェーンや暗号化技術に関わるものだが、これらはツールであって、本質そのものではない。
ウェブ3の本質は、様々な企業、個人、デバイスからのデータがプライバシーを保護する低コストな方法でシームレスに共有、検証できる世界である。ますます分散化する未来のために作られたもので、一部の業界の将来的な在り方の基盤となる。
最近のネガティブな状況は、ウェブ3の終わりなのではなく、2000年代初頭の最初のドットコムバブル崩壊に匹敵するものと見ることができる。価値のあるものとないものを選別するのに役立つ、期待の再調整と考えることができるのだ。現在の懐疑的な環境は、真の価値を解き放つアプリケーションに現在取り組んでいる多くの開発者にとって、歓迎すべきものである。
実際のビジネスシーンにおいてウェブ3アプリケーションはすでに、変容させる力を大いに持った存在であることを証明している。大型銀行の場合は、ブロックチェーンは仲介業者を排除することで、同日の国際送金を一段とシンプルかつ安価なものにしてくれる存在だ。関係者間に信頼できる技術的インフラがなければ実現し得ない効率化の形である。
ウェブ3の台頭はまた、ピアツーピア金融サービスの分野でもイノベーションを生み出し、これまで銀行サービスを受けることのできなかった人たちに、新しいタイプの銀行がサービスを提供することを可能にしている。
一方、サプライチェーンにおいても、ブロックチェーンやその他のデータ主導のテクノロジーが活用されている。国際的なバリューチェーンにおいて、新しいレベルの信頼、透明性、アカウンタビリティを生み出している。これには、気候変動に対処するのに欠かせないカーボン効率性やカーボンアカウンティングのアプローチも含まれる。
他よりも先を行っていて、なおかつ最も多くの課題が残るのがエネルギー業界だ。ウェブ3は、エネルギー市場における分散型アプローチに対する長年のニーズと、熱望される電力網の変容に答えを提供するのに、他に類を見ないほどぴったりなのだ。
過去100年の間、エネルギー市場のモデルは変わらなかった。大型の固定式発電所が、予測可能な運用パラメーターとピーク期間を伴って、エネルギーの流れを生み出してきた。電力会社から消費者への一方通行の電力の流れに対応して、逆方向にお金は流れている。
エネルギー市場の新モデル
今このモデルが、ひっくり返されている。現在の電力網の管理は、分散型再生可能エネルギー資産、消費者側に設置される(BTM)蓄電池、電力会社に電力を販売できる消費者などを考慮に入れる必要がある。
発電所はあなた、私、私たちを取り囲む企業によって所有されているのだ。屋上の太陽光発電システム、インバーター、バッテリー、電気自動車、スマート家電のネットワークで構成される分散化しつつもつながったシステムは、発電、保管、需要の状況をはるかに複雑にしている。
中心的な問題は、ハードウェア環境は劇的に変わったのに、電力網を支えるソフトウェアは変化していないということ。前述の様々なエネルギー資産すべてを電力網に統合できるようにするために、異なる人々や組織が所有するデバイス間のやり取り、データの交換を可能にするのは、ウェブ2テクノロジーには困難だ。
対照的にウェブ3テクノロジーは、その課題に取り組むのに理想的なほどぴったりだ。私が運営するNPOエネルギー・ウェブでは、世界最大の電力会社から個人の電気自動車まで、あらゆる市場参加者がお互いに会話できるようなシステムを一から構築することができた。
電力網を運営するのに必要なデータをサイロで分かれた状態にするのではなく、参加者が自らのプラットフォームやパラメーターを維持しつつ、信頼できる方法でデータを共有できる共有デジタルインフラを可能にするオペレーティングシステムを作ったのだ。
オーストラリアではこのオペレーティングシステムがすでに、エネルギー市場運営者と連携しながら配備されている。電力会社と電力収集業者が共同で共有システムを運用し、小規模エネルギー資産の保有者も、自らの提供するサービスの見返りに報酬を受け取っている。
このような共有される成功が、ウェブ3の成功と失敗を測る指標となる。だから私は、一般の人たちのウェブ3に対する興奮が下火になるのを見ても、心配していないのだ。
盛り上がりのサイクルと大げさな約束が崩れて、その瓦礫が片付いた後には、一段と強く、公平でフレキシブルなシステムのためのインフラが残るだろう。そこに、あらゆる人たちにとっての価値が眠っているのだ。
ジェシー・モリス(Jesse Morris)氏は、再生可能エネルギーへの移行を加速させるためのエネルギーシステム向けオープンソースプロダクトを開発するNPOエネルギー・ウェブ(Energy Web)のCEO。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Web 3 Isn’t Dead, Despite What Critics Might Say
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