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Friday, November 25, 2022

「逮捕して終わりじゃない」 公認心理師の資格取得 警察官の思い:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル

 魔法が使える警察官になりたいんです――。長崎県警の大渡優子警部補(48)は今年、公認心理師の試験に合格した。初挑戦にして、ラストチャンス。4人の子どもの母親として、仕事や育児と両立しながら独学でつかんだ。

 警察の仕事を「かっこいい」と思ったのは中学生の頃。所属していたバレー部のコーチが警察官だった。高校2年の時、県警が女性警察官の採用を開始。高卒後、1993年に巡査を拝命した。

 交番や本部の暴力団対策課などの勤務を経験。2004年、被害者支援を国や自治体の「責務」と定める犯罪被害者等基本法ができるのを契機に本部に新設された「犯罪被害者支援室」に異動した。ただ、当時はまだ手探りの状態。「どう支援していいのか分からなかった」

 18年、再び異動した支援室勤務で、ある事件の被害者支援を担当したときのことだ。

 被害者の保護者に支援を強く拒否され、面会はおろか、電話で連絡をとることすらかなわなかった。事件担当の捜査員に説得してもらい、「1回だけなら」と保護者に会えることに。関係機関に相談し、精神科の医師に同席してもらうことにした。

 「あなたも傷ついている。誰にも頼りたくない、何をしても同じと思っていますよね」。会ってすぐ、医師は保護者に声をかけた。「支援は、受けた方がいいんですよ」。これまで支援を拒否していた保護者は、すんなり納得した。

 その間、たった十数分。大渡さんには魔法を使ったように映った。「悔しかった。私がどんなに向き合ってもダメだったのに」

 自信を失い、眠れなくなった。職場にも行けなくなり、精神科を受診した。医師を前にしたとたん、涙があふれ、これまでの思いがついて出た。「先生は病気を治すプロだと思えたからだと思うんです」。あの時の保護者の気持ちが少し理解できた気がした。「支援できる」ことを一目で伝えられる立場になりたいと思った。

 17年、心理職の国家資格として「公認心理師」が創設された。カウンセリングをするだけでなく相手の心理状態を分析し、指導や援助をすることで、困りごとの解消をめざす。

 資格を取得するには、大学などで規定の科目を履修する必要があるが、22年までは経過措置として5年以上の実務経験があれば受験資格を得ることができることになっていた。資格取得のチャンスがあると知ったのは2年前で、特例措置のもとでは今年の試験が最初で最後のチャンスだった。

 休日には小学生の子ども2人を夫に連れ出してもらい、図書館へ。体や脳の仕組みを絵でイメージしようと、児童書を何冊も借りて、職場にも持ち込んだ。支援室での職務も、大渡さんにとっては「生きた講義」だった。

 今年7月に受験し、合格。県警で初めて、公認心理師の資格を持った警察官となった。「深く傷ついている人ほど、助けを求められない。そんな人に、私が目の前で見せられたような魔法をかけられるようになりたいんです」

 2度目の支援室勤務は5年目。最近、思い出したことがある。

 交番で勤務していた19歳の頃、パトロールが好きだった。自転車やバイクの盗難が多かった当時、1カ月に4台を持ち主に返したことがある。「被害を回復して、喜んでもらえる。警察ってこれだよねって思っていたんです」。支援室での職務は、まさに被害回復だ。「30年経って、やっとたどり着けた気がするんです」

 届け出をちゅうちょする被害者も多い。そんな中でも警察までたどり着いてくれた人は絶対に支援につなげたい――。「警察は、逮捕して終わりじゃないんです。私の後で支援室に配属になる警察官にも、思いを引き継いでいきたいと思っています」(寺島笑花)

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