2020年は「はんこ」にとって受難の1年だった。テレワークが始まると、はんこを押すために出勤するビジネスシーンが表面化。「在宅勤務の妨げ」とやり玉に挙がり、菅義偉首相が「押印は原則全て廃止する」と所信表明する事態に進展した。通常国会で法改正されると、印鑑が必要だった1万4992の行政手続きのうち、不動産登記など83を除き、99%以上で認めは不要になる。

手彫りのはんこ業者でつくる全日本印章業協会の会員数は激減している。協会が誕生した1989年(平元)の4370店から今年10月末には889店。5分の1になった。埼玉県印章業組合の組合長を8年務めている竹山均さん(71)も父親が1952年(昭27)に開業した「芙蓉堂」(さいたま市)を今日25日、閉店する。

「昔は青年部もあって100人はいたのに、今は若い人でも50代で28人です。後を継ぐ人がおらず、どんどん減っていたところにコロナです。(組合長を)交代してもらわないといけないんだけど、総会も開けないし、交代してくれる人もいない」と竹山さん。

閉店にあたって心配なのは誤解が広がっていることだ。「菅さんや河野さん(河野太郎行革相)が押印廃止と言ったから、みんな、はんこはなくなると惑わされている。芙蓉堂は終わっちゃうけど、実印や会社印は残ります。はんこがなくなるわけではないと書いて下さい。卒業証書の学校印だって絶対必要です」。「漢委奴国王印」に始まる日本のはんこの歴史をコロナで終わらせてはいけないと思っている。【中嶋文明】