ワクチン予約でクリニックに行列
クリニックで勤務する友人たちから「ワクチン接種予約の行列ができている」という連絡をもらいました。全国で始まったワクチン接種の予約、来院予約を導入したクリニックでは「あの行列はなんだ」と話題になるほどの行列ができました。
3~4月頃は「先生、私ワクチンを接種してもよいでしょうか?」が、私の外来の定番の話題でした。ポリエチレングリコールが含まれる薬剤(消化器内視鏡前に飲む下剤など)や化粧品などに重篤なアレルギーがなければ、基礎疾患があっても接種は可能です。このあたりは堀向健太先生(ほむほむ先生)の記事が分かりやすいと思います(1)。いろいろな報道によりこの見識が広まりつつあり、かかりつけの患者さんから病院にワクチン可否の問い合わせ電話がかかってくる回数は徐々に減ってきました。
さて、5月になると話題は「ワクチンの予約」に移りました。「頑張って電話をかけたけど予約できなかった」「孫が頑張ってネットで予約してくれた」という話をよく聞きます。スマホを複数台使い分けて、祖父母の予約を両手で取る強者も出現しています。もはや、人気コンサートチケット争奪戦の様相を呈してきました。
予約システムについては、システムエラーやサーバーダウンが相次いだためネット予約ができなくなった自治体があり、電話にいたっては回線数が少なすぎてまったくつながらない地域もあります。高齢者に一度に接種券を送った地域では、市役所・区役所に多数の高齢者が押しかける事態になりました。反対に、ワクチン予約可能日になったのに接種券が届かない地域もありました。「自治体は何をやっているんだ!」とお怒りの人も多いと思います。
全国の高齢者約3,600万人が2回接種できる必要量は6月中にすべて配布可能としていますが、接種できる医療従事者には限りがあります。そのため、埋まってしまった予約枠を押しのけて割り込むことはできません。海外からはすでに遅れを取っている状況なので、今さら、「1分1秒でも早く!」と焦らなくてもよいのですが、できるだけ早く接種したい気持ちも十分理解できます。
だからこそ行列ができるのだろうと思います。「長期的な供給は十分あるが、短期的には争奪戦になっている」という構図です。この焦りの蔓延による行列は、コロナ禍早期のトイレットペーパー騒動と全く同じです。
新型コロナワクチンの予約とハードル
新型コロナワクチンの予約は、自治体に電話あるいはインターネットで予約する、または接種可能なクリニックに問い合わせるという2種類の方法があります。
スマホやタブレットのカメラでクーポンに記載されているQRコードを読み取って、予約サイトでクーポンIDとパスワードを入力するのですが、高齢者にはかなりハードルが高いと思われます。
新型コロナワクチンは、ファイザー社製とモデルナ社製で保存方法が異なりますが、インフルエンザワクチンのように簡単に入荷・保管ができない上、一度使い始めると6時間以内に規定人数を接種しないといけないため、「いつでも」「どこでも」「誰でも」接種できるという仕組みになっていません。ワクチンが余ったら、すぐそこの駅前で被接種者を募集してすぐ打ちましょう、みたいな芸当が日本では難しいのです。
なので、新型コロナワクチンの接種フローが、日本のアナログなシステムの俎上に載ってしまうと、いろいろと問題が生じることは自明の理でした。しかし、それでもワクチン接種をスピーディにすすめていかないといけない。このギャップが、今の混乱を生んでしまった要因でしょう。
浴びせられる罵声
知り合いのクリニック医師の話によると、ワクチンの予約がとれないということで、クリニックの受付に「そもそも予約の方法がおかしい」「ワクチンを待っている間に新型コロナにかかったらどうしてくれるんだ」のような罵声を浴びせる人がいたそうです。市役所・区役所でも、ネット予約の「お助け部隊」を編成して工夫は凝らしているものの、やはり窓口レベルでの苦情が多い状況です。
クリニックは、自治体から委託されて接種予約を引き受けているボランティアです。小さなクリニックで、通常の診療に加えワクチン業務も追加し、人件費などの過剰分に補助金もなく、自治体からの報酬も微々たるものです。多くが医師ワンオペで接種することになりますので、枠の上限を超えてしまったら「その日は難しい」と答えるしかありません。
接種当日にワクチンが納入されてきて、朝一番の接種に間に合わなかったクリニックもあり、現場としても「ワクチンがいつ・どれだけの数到着するか」という情報が不足しており、混沌を極めています。
ワクチン予約が可能な医療機関は限られており、自治体によって差はありますが、大病院では基本的に受け付けていないと思ったほうがよいです。接種予約が可能な医療機関は、コロナワクチンナビから検索できます。
■コロナワクチンナビ(URL:https://v-sys.mhlw.go.jp/search/)
少しでも早く接種したい気持ちは分かりますが、どうか落ち着いていただきたいと思います。高齢者だけの接種でこのような状況になっているわけですから、これがその他の年齢層に広がってきたら・・・と思うと、ゾっとします。せめて予約システムだけでも、どうにか国や自治体で一括できないものでしょうか。
最後に、ワクチン接種の予約がとれたからといって、安心しすぎないようにしてください。「接種したらマスクなし生活」をイメージしている人が多いですが、「絶対にかからない・うつさない」という夢のワクチンというわけではないため、社会全体で感染が拡大している段階では、接種後も、引き続き感染対策が必要と私は考えます。
(参考)
(1)堀向健太. 新型コロナワクチンでアレルギーを起こす物質といわれている『ポリエチレングリコール』ってなんですか?(URL: https://news.yahoo.co.jp/byline/horimukaikenta/20210313-00227214/)
ワクチン予約でクリニックに行列
クリニックで勤務する友人たちから「ワクチン接種予約の行列ができている」という連絡をもらいました。全国で始まったワクチン接種の予約、来院予約を導入したクリニックでは「あの行列はなんだ」と話題になるほどの行列ができました。
3~4月頃は「先生、私ワクチンを接種してもよいでしょうか?」が、私の外来の定番の話題でした。ポリエチレングリコールが含まれる薬剤(消化器内視鏡前に飲む下剤など)や化粧品などに重篤なアレルギーがなければ、基礎疾患があっても接種は可能です。このあたりは堀向健太先生(ほむほむ先生)の記事が分かりやすいと思います(1)。いろいろな報道によりこの見識が広まりつつあり、かかりつけの患者さんから病院にワクチン可否の問い合わせ電話がかかってくる回数は徐々に減ってきました。
さて、5月になると話題は「ワクチンの予約」に移りました。「頑張って電話をかけたけど予約できなかった」「孫が頑張ってネットで予約してくれた」という話をよく聞きます。スマホを複数台使い分けて、祖父母の予約を両手で取る強者も出現しています。もはや、人気コンサートチケット争奪戦の様相を呈してきました。
予約システムについては、システムエラーやサーバーダウンが相次いだためネット予約ができなくなった自治体があり、電話にいたっては回線数が少なすぎてまったくつながらない地域もあります。高齢者に一度に接種券を送った地域では、市役所・区役所に多数の高齢者が押しかける事態になりました。反対に、ワクチン予約可能日になったのに接種券が届かない地域もありました。「自治体は何をやっているんだ!」とお怒りの人も多いと思います。
全国の高齢者約3,600万人が2回接種できる必要量は6月中にすべて配布可能としていますが、接種できる医療従事者には限りがあります。そのため、埋まってしまった予約枠を押しのけて割り込むことはできません。海外からはすでに遅れを取っている状況なので、今さら、「1分1秒でも早く!」と焦らなくてもよいのですが、できるだけ早く接種したい気持ちも十分理解できます。
だからこそ行列ができるのだろうと思います。「長期的な供給は十分あるが、短期的には争奪戦になっている」という構図です。この焦りの蔓延による行列は、コロナ禍早期のトイレットペーパー騒動と全く同じです。
新型コロナワクチンの予約とハードル
新型コロナワクチンの予約は、自治体に電話あるいはインターネットで予約する、または接種可能なクリニックに問い合わせるという2種類の方法があります。
スマホやタブレットのカメラでクーポンに記載されているQRコードを読み取って、予約サイトでクーポンIDとパスワードを入力するのですが、高齢者にはかなりハードルが高いと思われます。
新型コロナワクチンは、ファイザー社製とモデルナ社製で保存方法が異なりますが、インフルエンザワクチンのように簡単に入荷・保管ができない上、一度使い始めると6時間以内に規定人数を接種しないといけないため、「いつでも」「どこでも」「誰でも」接種できるという仕組みになっていません。ワクチンが余ったら、すぐそこの駅前で被接種者を募集してすぐ打ちましょう、みたいな芸当が日本では難しいのです。
なので、新型コロナワクチンの接種フローが、日本のアナログなシステムの俎上に載ってしまうと、いろいろと問題が生じることは自明の理でした。しかし、それでもワクチン接種をスピーディにすすめていかないといけない。このギャップが、今の混乱を生んでしまった要因でしょう。
浴びせられる罵声
知り合いのクリニック医師の話によると、ワクチンの予約がとれないということで、クリニックの受付に「そもそも予約の方法がおかしい」「ワクチンを待っている間に新型コロナにかかったらどうしてくれるんだ」のような罵声を浴びせる人がいたそうです。市役所・区役所でも、ネット予約の「お助け部隊」を編成して工夫は凝らしているものの、やはり窓口レベルでの苦情が多い状況です。
クリニックは、自治体から委託されて接種予約を引き受けているボランティアです。小さなクリニックで、通常の診療に加えワクチン業務も追加し、人件費などの過剰分に補助金もなく、自治体からの報酬も微々たるものです。多くが医師ワンオペで接種することになりますので、枠の上限を超えてしまったら「その日は難しい」と答えるしかありません。
接種当日にワクチンが納入されてきて、朝一番の接種に間に合わなかったクリニックもあり、現場としても「ワクチンがいつ・どれだけの数到着するか」という情報が不足しており、混沌を極めています。
ワクチン予約が可能な医療機関は限られており、自治体によって差はありますが、大病院では基本的に受け付けていないと思ったほうがよいです。接種予約が可能な医療機関は、コロナワクチンナビから検索できます。
■コロナワクチンナビ(URL:https://v-sys.mhlw.go.jp/search/)
少しでも早く接種したい気持ちは分かりますが、どうか落ち着いていただきたいと思います。高齢者だけの接種でこのような状況になっているわけですから、これがその他の年齢層に広がってきたら・・・と思うと、ゾっとします。せめて予約システムだけでも、どうにか国や自治体で一括できないものでしょうか。
最後に、ワクチン接種の予約がとれたからといって、安心しすぎないようにしてください。「接種したらマスクなし生活」をイメージしている人が多いですが、「絶対にかからない・うつさない」という夢のワクチンというわけではないため、社会全体で感染が拡大している段階では、接種後も、引き続き感染対策が必要と私は考えます。
(参考)
(1)堀向健太. 新型コロナワクチンでアレルギーを起こす物質といわれている『ポリエチレングリコール』ってなんですか?(URL: https://news.yahoo.co.jp/byline/horimukaikenta/20210313-00227214/)
からの記事と詳細 ( 予約できない新型コロナワクチン 罵声を浴びせないで(倉原優) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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