【衆院選2021のポイント】
- 自民党が261議席で単独過半数超え
- 与党(自民・公明)で絶対安定多数を確保
- 自民党の甘利明幹事長が小選挙区で敗北し、石原伸晃元幹事長が小選挙区と比例で落選。閣僚経験者などベテランも苦戦
- 立憲民主党は公示前議席を下回り、共産党との野党共闘は「不発」に
- 日本維新の会が公示前の4倍近い議席(41議席)を獲得、第3党に躍進。国民民主党は公示前を上回る11議席を獲得
- れいわ新選組が3議席獲得。社民党は1議席、NHK党は議席獲得ならず
- 女性議員の割合は9.6%(45人/465人)
第49回衆院選(定数465)は10月31日投開票され、自民党は261議席、公明党が32議席を獲得した。自民党・公明党の与党で過半数を上回る293議席となり、「絶対安定多数(261議席)」を上回った。
「絶対安定多数」とは、衆院にある17の常任委員会の全ての委員長ポストを独占し、かつ各委員会で過半数を確保できる議席数。国会を安定的に運営できるラインとされる。
公示前勢力は与党で305議席(自民党276・公明29)だった。
自民党が「単独過半数」を獲得
公示前勢力と新勢力。
NHK開票速報よりBusiness Insider Japanが作成。
自民党が単独でも過半数にあたる233議席を上回った。これにより自民党を中心とした自公連立政権の継続が確実となった。
岸田文雄首相は勝敗ラインについて「自公で過半数」と述べていたが、それを上回る“単独過半数”を獲得したことになる。
また、憲法改正の国会発議には総定数465のうち3分の2にあたる310議席が必要となるが、改憲勢力とされる自民・公明・日本維新の会で「3分の2」を確保した。
政権維持、でも幹事長、閣僚経験者が選挙区で“落選”
政権維持を確実とした自民党だが、小選挙区では候補者を一本化させた野党候補との対決で苦戦するベテラン議員も相次いだ。
小選挙区では甘利明幹事長が敗北。現職の自民党幹事長が小選挙区で敗れるのは初めてのことだ。
甘利氏は比例での「復活」が伝えられたが、共同通信は関係者の話として「甘利幹事長が幹事長職を辞任する意向を党幹部に伝えた」と報じた。
このほか自民党では石原伸晃・元幹事長、桜田義孝・元五輪相、平井卓也・元デジタル相、金田勝年・元法相、山本幸三・元地方創生相など派閥領袖や、安倍・菅政権を支えた閣僚経験者の小選挙区での敗北が相次いで伝えられた。石原氏と山本氏は比例で復活できず「落選」した。
立憲、野党共闘で「大金星」も全体では議席減
立憲民主党の開票センターで記者会見する福山幹事長。
撮影:横山耕太郎
複数の小選挙区で、野党統一候補と自民候補が競っている——。
開票の開始当初、野党第1党の立憲民主党の幹部は「野党共闘」への手応えを語っていた。
福山哲郎幹事長は31日夜、東京都内の党開票センターでNHKのインタビューに対し、野党共闘の成果を強調していた。
「野党が協力して候補一本化の動きを作った。一定の支持をいただけたと思う。接戦のところで勝ちきって1議席でも増やしたい」
「東京8区や(自民・甘利幹事長と争った)神奈川13区など、一本化した成果は着実に出ていると考えている」
31日午後11時30分から記者会見した枝野幸男代表も、与野党の「一騎打ち」に複数の選挙区で持ち込めたとして、野党共闘の成果を語った。
立憲・吉田氏(左)と自民・岸田首相、石原氏
撮影:三ツ村崇志、吉川慧
枝野代表と福山幹事長が、ともに強調したのが「東京8区」での大金星だ。
自民前職の石原伸晃元幹事長と立憲新顔の吉田晴美氏が争ったのがこの選挙区だった。
当初、共産党も候補者擁立を準備していたが、野党共闘で立憲・吉田氏に候補者を一本化した。
ただ、公示前にれいわ新選組の山本太郎代表が同区からの立候補を発表するなど、候補者擁立をめぐって野党内で一時混乱もあった。
一悶着はあったが、共闘した野党陣営は吉田氏をバックアップ。結果、岸田文雄首相も応援に入った自民党の派閥領袖を下した——しかも、比例復活を許さないほどに……。
当選確実が伝えられた議員の名前を張り出す立憲・長妻副代表(右)と福山幹事長
撮影:横山耕太郎
「東京8区」の重みは、立憲民主党の開票センターで午後9時前からはじまった「花付け」からも伺えた。
「花付け」とは、当選確実が報じられた候補者の名前を張り出すセレモニーのこと。このとき、最初に貼り付けられたのも「東京8区」を制した吉田氏のものだった。
「東京8区」は、まさに“野党共闘の象徴”となった選挙区だった。
ところが、開票が進むにつれて風向きが怪しくなる。
立憲民主党の開票センターで記者会見する枝野代表。
撮影:横山耕太郎
深夜にかけて、立憲の票の伸び悩みが明らかになってきたからだ。
枝野氏の会見終了からおよそ1時間半後が経った11月1日午前1時半過ぎ、立憲民主党が公示前の109議席を下回ることが確実になった。
加えて、自民党で起こった「ベテラン」敗北の事例は立憲民主党にも起こった。
党重鎮の小沢一郎氏や「無敗の男」と呼ばれ無所属から立憲入りした中村喜四郎元建設相が選挙区で敗北。党副代表の辻元清美氏と党選対委員長平野博文氏は比例復活もならず、議席を失った。
結果、立憲民主党の議席数は公示前勢力の109議席から13減らし96議席に。野党共闘による議席増で与党を過半数割れに追い込むことを目指したが、不発に終わった。
たしかに小選挙区では自民党との接戦に持ち込んだ選挙区がいくつもあった。
立憲幹部が誇った東京8区や神奈川13区にようにジャイアントキリングを達成したところもあった。
だが、思った以上に競り負けるところがあったのも事実だ。加えて比例が伸びなかったことも響いた。
社民党や共産党などとの連携を進め「野党共闘」を推進したことで、有権者が立憲民主から離れていった面もありそうだ。
いかに枝野氏が「政権奪取時、共産党は“閣外からの協力”」と、距離を置く発言をしても、政策的には共産党と重なる部分は多かった。社民・共産と支持者が被れば、支持の広がりを欠いたことも想定される。
野党共闘はたしかに選挙区で一定の役割を果たした。だが、それでは政権交代にはつながらなかった。
野党にはこの先、どんな手段が残されているのだろうか。
躍進したのは「維新」だった。
「日本維新の会」の選挙公報
撮影:吉川慧
第1党の自民党が議席を減らした一方、野党第1党の立憲も公示前議席を下回った。では「政権批判票」はどこへ消えたのか。
躍進したのは「日本維新の会」だった。
選挙結果は公示前議席の4倍近い41議席に。公明党を上回り、第3党に躍り出た。
関西では2府4県の47小選挙区では自民党が大敗した一方、維新が議席を伸ばした。
特に、お膝元である大阪府では19小選挙区のうち維新が15議席を獲得。残った4議席は公明党が確保。立憲・自民はともに議席を得られなかった。
これまでの衆院選で維新が獲得した最多議席は2012年の54議席。次いで2014年の41議席だった。
4年前の2017年には11議席と大幅に議席を減らしたが、今回で復調した格好だ。
「改革」を唱える政権と対峙する「第三極」として有権者の支持を得た面もありそうだ。
国民民主は11議席、れいわ3議席、NHKは…
その他の党の情勢をNHKの開票情報から見てみよう。
自民党と連立を組む公明党は公示前から3議席積み増して32議席に。共産党は公示前から2議席減らし、10議席となった。野党共闘で小選挙区では立憲に立候補を譲ったことで比例に集中する戦略となったが、結果は不発だった。
国民民主党は小選挙区で立候補した前職の候補者6人が全員当選し、比例でも5議席を獲得。公示前から3議席積み増し、11議席を確保した。社民党は沖縄2区で唯一持っていた小選挙区の1議席を死守した。
れいわ新選組は山本太郎代表を含めて比例で3議席を確保。NHK党は議席を獲得できなかった。
女性議員の割合は9.6%
Women in Politics: 2021
https://www.ipu.org/
NHKの開票速報によると「当選」または「当選確実」となった465人のうち女性議員は45人。衆院議員に占める女性の割合は9.6%となった。
列国議会同盟(IPU)によると、1月1日時点の各国議会(下院もしくは一院制)の女性割合ランキングで日本は166位(9.9%)と先進7カ国(G7)で最低だった。世界平均は25.5%。
新勢力の各党の女性議員の内訳は以下の通り。
- 自民党:20人/261人(7.6%)
- 公明党:4人/32人(12.5%)
- 立憲民主党:13人/96人(13.5%)
- 共産党:2人/10人(20%)
- 日本維新の会:4人/41人(9.7%)
- 国民民主党:1人/11人(9%)
- れいわ新選組:1人/3人(33.3%)
- 社民党:0人/1人(0%)
(取材・文:吉川慧)
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