新型コロナウイルス危機は「安倍1強」の終わりの始まりを予感させる。ポスト安倍の風景も変わりかねない。
「家賃支援はテナントに直接、助成・補助することが必要ではないか。議員立法も視野にしっかり対応したい」
21日の記者会見。自民党の岸田文雄政調会長は家賃支援策でこう踏み込んだ。目の色を変えるのには訳がある。
16日、緊急事態宣言対象区域の全国への拡大を表明する安倍首相
■麻生内閣「定額給付金」のトラウマ
ここで場面は3月13日の首相官邸に遡る。安倍晋三首相は緊急経済対策に向け甘利明党税調会長と話し込んだ。
甘利氏「カギは分かりやすさとインパクトだ。一律の現金給付をやろう」
首相「その通りだ。私もそう思う」
1人5万円案が出ると、首相は「金額はまだ言わないで」と制した。首相は一律給付で額を上積みする、と甘利氏は確信した。だが、流れが変わる。
「私が首相として臨んだリーマン・ショックの失敗を繰り返したくない」
こう所得急減層への限定給付を唱えたのは麻生太郎副総理・財務相だ。当時も連立を組む公明党の求めで一律1万2千円の定額給付金を配った。消費拡大の効果は薄いと批判され、「資産家の麻生氏までもらうのか」と反発を招き、政権交代の伏線にすらなった。
このトラウマを共有する人物が安倍官邸にもいた。麻生内閣には官房長官秘書官として仕えた今井尚哉首席首相秘書官らだ。現官邸を仕切る今井氏ら経産官僚グループと、麻生氏を支える財務省中枢は「真に困っている人に的を絞り、額は大きくする」限定給付で折り合う。これに首相が乗ったのだ。
消費税増税に対応したポイント還元策など近年の重要決定と同じで、首相秘書官室主導の密室調整パターンだ。
首相は3月17日、18日と自民党の政策責任者である岸田氏と会談を重ねた。岸田氏は党内で勢いづく一律10万円の給付論を背に臨んだはずが、翌19日。側近議員は「状況が急変した。官邸は給付を所得急減世帯に限定する気だ」と慌てていた。
■「ひ弱な本命」岸田氏の蹉跌
岸田氏は首相主導の隊列に加わるほかなかった。ポスト安倍の総裁選では首相の禅譲頼みの「ひ弱な本命」だからだ。首相と麻生氏が岸田氏を支持し、3氏の派閥の議員数を合わせれば、党内の過半数をうかがう勢力になる。岸田氏が31日、官邸に持参した党の緊急対策提言は限定給付論に転じていた。
首相も麻生氏もそんな岸田氏に花を持たせる。4月3日、岸田氏は官邸で首相と会談後に「限定給付で1世帯30万円」の安倍裁断を引き出した、と記者団に明かす。財務省で麻生氏と会うと「自治体に地方創生臨時交付金1兆円を配る」との麻生発言も公表した。
ただ、限定給付の線引きが「世帯主の月収がコロナ以前より減少」「個人住民税均等割の非課税世帯」などと分かりにくく、世論が離反する。いつもは官邸に押し切られる与党だが、抗議や苦情が殺到したために浮足立った。
首相は岸田氏配慮の半面で、他の与党首脳への根回しを怠った。14日に一律給付を蒸し返したのは二階俊博幹事長。若手議員の突き上げや公明党の反発に反応し、反りが合わない岸田氏の「手柄」への当てこすりでもあった。実は次の経済対策で給付追加を迫るつもりが、これで公明党が勢い込んだ。閣議決定済みの2020年度補正予算案を組み替えよ、とちゃぶ台返しに出る。
15日、マスク姿で官邸に乗り込む公明党の山口那津男代表の目力は尋常ではなかった。国会の日程協議を拒む実力行使にも出た。集団的自衛権の問題ですら「連立離脱」は封印した支持母体の創価学会の突き上げの強烈さを物語る。公明党が離反すると、参院は自民党だけでは過半数に届かず、政権は行き詰まる。首相はやむなく折れた。
首相や岸田氏の威信は失墜した。反主流の石破茂元幹事長は「混迷・混乱の度が高まっている」と冷ややかだ。
一律給付の経済合理性はここで論じない。コロナ不安の世論にあおられる与党。衆院選が大勝大敗が起きやすい小選挙区主体になって以来、首相は「選挙の顔」としてリーダーシップの演出に腐心する。高い支持率を保つ限り、官邸の求心力は強い。野党次第でもあるが、次の選挙が危ない、と与党や各議員が個々の生き残り第一で走り出すと、政権のバラバラ感から支持率も下がるし、急激に遠心力が働く。定額給付金以降の麻生内閣がそうだった。
[日経ヴェリタス2020年4月26日号]
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April 27, 2020
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10万円給付に透ける「安倍一強」終わりの始まり - 日本経済新聞
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