高齢者運転対策を盛り込んだ改正道交法が2日、衆院本会議で可決、成立した。契機となったのは昨年4月、東京・池袋で高齢運転者の車が暴走し、松永真菜さん=当時(31)=と長女莉子ちゃん=当時(3)=が死亡した事故だった。悲しみの淵にありながら事故防止を訴え続けた夫拓也さん(33)は、法改正を「大きな一歩だけど、終わりではない」と語る。都市と地方の格差、免許返納者の生活支援など課題は残されている。インターネットのビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で思いを聞いた。
事故の5日後、拓也さんは会見で涙ながらに訴えた。「運転に不安がある人は運転しない選択を考えてほしい」。犠牲者を減らしたい一心だった。
6月には福岡市早良区で80代男性の車が逆走し、10人が死傷する事故も発生。「また起きた。もっと伝えられることがあったのでは」と自分を責めた。妻子が事故に遭った時間に手が震え、見ていない事故の瞬間の光景が目に浮かんだ。
同様の経験をした遺族たちと出会い、交通政策の勉強を始めた。東京生まれ、東京育ちの拓也さん。車でないと買い物や病院さえ行けないという地方の窮状を知った。免許が自尊心そのものという人もいる。「『運転しない選択』を迫った発言は短絡的だった」と省み、今はこう考える。
「高齢者を切り離して事故は防げるが、今生きてる命を見放すことになる。事故で奪われる命も、車を手放すことで脅かされる日常も望まない」
高齢化に伴い、75歳以上の運転免許保有者数は昨年までの10年間で140万人も増えた。改正道交法は、一定の違反歴がある75歳以上への実車試験の義務付けや安全運転サポート車(サポカー)の限定免許創設を定める。「従来の免許更新は足が不自由など体の機能を調べていなかった。一定の効果は出る」と期待する。
一方、サポカーへの過信が事故につながらないか懸念する。自動ブレーキの作動には多くの条件があり、池袋の事故もサポカーで防げなかった。「技術を過信しないよう正確な情報発信が必要」と求める。
拓也さんの活動は世の中を動かした。運転免許の返納件数は昨年、過去最多の約60万件に上った。「高齢の親の説得などそれぞれの家庭の頑張りに支えられた結果」と受け止める。
事故は高齢者だけが起こすものではない。誰もが加害者にも被害者にもなる。高齢者運転対策が「若年者と高齢者の対立構造になってほしくない」と願う。
「1人でも命が守られれば、2人の命を無駄にしないことにつながる」と一周忌を機に実名を公表し、会員制交流サイト(SNS)などでも発信を始めた。
「僕の寿命が尽きたとき、2人に『生ききったよ』と言えるようにしたい」。事故のない社会のために、前を向く。 (梅沢平)
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June 03, 2020 at 04:00AM
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高齢運転対策「終わりはない」池袋暴走の遺族訴え 改正道交法成立 - 西日本新聞
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