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Tuesday, December 29, 2020

年の終わりに考える 民主主義はありますか - 東京新聞

 世界中がコロナ禍に見舞われた今年も暮れようとしています。未曽有の感染症にどう立ち向かうのか、という難問とともに、民主主義の意義や在り方が問われた一年でもありました。

    ◇    ◇

 ご存じの読者もいらっしゃると思いますが、新聞の社説を巡るお話を紹介します。今から百年以上も前、一八九七年のことです。ニューヨークの新聞「ザ・サン」に一通の手紙が届きました。

◆サンタはいるのですか

 「編集者さま。私は八歳です。『サンタクロースはいない』と言う友だちがいます。パパは『ザ・サンに書いてあるなら、そうだろう』と言います。お願いです。本当のことを教えてください。サンタクロースはいるのでしょうか。バージニア・オハンロンより」

 サンタの存在を巡る子どもの質問に、ザ・サンはどう答えたのでしょう。それは後ほど紹介するとして、もし私たちの新聞社に、子どもたちから「民主主義って本当にあるのですか」との質問が寄せられたら、どう返せばいいのか、頭を悩ませてしまいます。

 私たちが住む日本をはじめ、ほとんどの国家では、民主主義が機能していると当たり前のように考えて暮らしています。しかし、実態はどうでしょう。

 例えば、今年大統領選が行われた米国では現職大統領が自国民を威圧、分断し、投票結果にも難癖をつけて覆そうとしています。

 世界の民主主義国家を率いてきた米国ですら足元に広がるのは、長い年月をかけて築き上げてきた民主主義がいとも簡単に傷つけられる荒涼とした光景です。

 私たちが住む日本ではどうでしょう。年末になって安倍晋三前首相は、「桜を見る会」前日の夕食会を巡り、自らの国会答弁の修正に追い込まれました。

◆見えないけど存在する

 「後援会としての収入、支出は一切ない。報告書への記載は必要ない」「補填(ほてん)の事実も全くない」

 追及する野党議員に対し、安倍氏はこう強弁し続けました。これらがすべて虚偽だったわけです。

 衆院調査局によると「桜を見る会」の夕食会を巡り、安倍氏が首相在任中、国会審議の中で行った虚偽答弁は百十八回に上ります。

 安倍前政権当時、財務官僚による公文書偽造にまで至った学校法人「森友学園」への国有地売却問題でも、事実と異なる政府答弁は合計百三十九回を数えました。

 国権の最高機関であり、国民の代表で構成する国会で、首相ら政府側がこんなにも虚偽答弁を繰り返していたら、そもそも民主主義や三権分立が機能しているのか、と疑いたくもなります。

 民主主義って学校では習うけれども、本当にあるのだろうか。純粋な子どもたちがそう考えても不思議はありません。まだそのように尋ねる手紙は、私たちの元には届いていませんが…。

 冒頭のザ・サンの話に戻りましょう。手紙を受け取ってまもなく社説という形で返事が載ります。

 「バージニア、あなたの友だちは間違っているね。サンタクロースはいる。愛とか思いやりとかまごころと同じように、サンタクロースはいるよ。そういうものが満ちあふれているおかげで、あなたの暮らしがとても素晴らしく、楽しいものになっているよね」

 「誰もサンタクロースを見たことはないけれど、それはサンタがいないという証明にはならない。本当のことは子どもにも大人にも見えないんだ」

 手紙の主であるバージニアは、長じてニューヨークの小学校の先生となりました。子どもたちから「サンタクロースって本当にいるの」と聞かれるたびに、この社説を読んで聞かせたそうです。

 米国の報道博物館「ニュージアム」(現在はインターネット上に移行)は、この社説を「歴史上、最も多くの書籍や映画、ほかの社説やポスター、切手に一部もしくは全部がさまざまな言語で紹介された社説」と紹介しています。記者人生で一度はこのような社説を書いてみたいものですが。

◆不断の努力で磨き、守る

 存在が怪しまれる民主主義ですが、サンタクロースのように目には見えないけれど、確かに存在しています。個人の自由と権利を尊重するその理念は、私たちの暮らしを豊かにしてきたし、これからも豊かにするはずです。

 もし「民主主義って本当にあるのですか」と尋ねる手紙が届いたら、確信を持ってこう答えたい。

 しかし、これまで多くの先人が指摘してきたように、民主主義は完璧な政治制度などではなく、ほかの制度に比べて、少しましなだけかもしれません。だからこそ、不断の努力で民主主義を磨き、守り抜かねばならないのです。

 私たちの新聞は、その役割の一端を担えているのだろうか、自問を繰り返す年の瀬です。

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