[ロンドン 27日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)は30日に理事会を開く。緊急の債券買い入れ措置を先月決定したばかりだが、ユーロ圏経済が新型コロナウイルス危機を乗り切るのを支援するためにさらに何ができるのか、と早くも市場から問い掛けられつつある状況だ。
今年の債券買い入れ規模を1兆1000億ユーロに拡大する緊急措置の導入で、新型コロナ大流行に伴う金融面の混乱はひとまず収まった。しかし世界経済が数十年間で最悪の景気後退(リセッション)に見舞われ、感染拡大が深刻なイタリアなどの借り入れコストが再び上昇しているだけでなく、欧州各国政府がそれぞれ財政面のコロナ対策をなかなかまとめられない以上、ECBの苦闘に終わりは見えない。
ABNアムロの金融市場調査責任者、ニック・コーニス氏は「ECBは既に多くの仕事をしているものの、その正確な戦略を説明するという意味で、今回は重要な会合になるだろう」と述べた。
以下に市場が関心を持つ5つの重大な疑問を記した。
(1)年間1兆1000億ユーロという債券購入規模は十分か
ユーロ圏各国が新型コロナの悪影響を抑えるための財政支出を賄う上で必要になる国債の発行が膨らみ続けている点を踏まえると、ECBは債券買い入れを拡大せざるを得なくなる、というのが専門家の見立てだ。
ABNアムロの試算では、ユーロ圏諸国の追加的な借入所要額は6900億ユーロに達する。ECBは先月、従来の債券買い入れの枠組みに加えてまず1200億ユーロ、次いで7500億ユーロの購入を上積みした。このうちの60?65%程度がソブリン債に振り向けられるとすると、これでは各国の新たな必要額を十分にカバーできない見込みという。
財政が脆弱な周縁国支援のため債券買い入れを前倒ししたことからも、ECBが緊急枠を近く拡大しなければならない可能性が透けて見える。
2つの銀行の推計によると、現在のペースで買い入れを続けていけば、今年10月までに枠を使い果たす。オランダ中央銀行のクノット総裁のようなタカ派のECB理事会メンバーでさえ、緊急買い入れの拡大を完全には否定していない。
(2)ECBがほかに打ち出せる手段は
ECBは先週、銀行向け貸し出しの担保に一部ジャンク債を含めると発表し、一段の政策対応に積極的な姿勢をにじませた。
ダンスケ銀行のECB・債券担当チーフストラテジスト、ピエト・ハイネス氏は「これは本当に大きな一歩だ。なぜならこれまでECBはジャンク債の担保受け入れを決して望んでいなかったのだから」と驚く。
INGのアナリストチームは、次の一手としてECBはジャンク債の中で比較的格付けの高いものすべてを担保適格とした上で、直近で投資適格級から転落した「フォールン・エンジェル(堕天使)」債の買い入れに動く可能性があるとみる。
そのほか上場投資信託(ETF)や銀行債の買い入れ、より好条件での銀行向け長期資金供給実施、金利階層化をもっと細かくすることなどが選択肢だ。ピクテ・ウエルス・マネジメントのグローバル・ストラテジスト、フレデリック
・デュクロゼ氏は、金利階層化を進めれば、超過準備は所要準備額に対する現在の6倍から、8倍に増える可能性があるとの見方を示した。
(3)リセッションの深さと回復スピードはどのぐらいか
ECBは経済成長の「大幅な縮小」に備えている。近く一段の政策対応が出てくるかどうか見極めようとしている市場が希望するのは、ECBの政策担当者が詳しい景気回復シナリオを提示してくれることだ。
ただロックダウン(封鎖)による経済活動停止というかつてない事態を受け、景気回復を具体的に予測するのは難しい。ロイターがエコノミストを対象に行った調査でも、今年のユーロ圏の成長率見通しはゼロからマイナス16.1%という幅になった。
アクサ・インベストメント・マネジャーズのチーフエコノミスト、ギレス・モエク氏は「ECBが景気回復の形状をどうみているかにより関心を持っている。第3・四半期と第4・四半期にプラス成長となるかどうかという面で、重要な問題だ」と話した。
(4)ECBは不良債権増大をどの程度懸念しているか
イタリア銀行(中央銀行)は、新型コロナ危機が銀行の不良債権比率を押し上げかねないと警告した。ポルトガルでは16年半ばに17.9%だった不良債権比率が昨年12月に6.1%まで下がったものの、なお欧州平均の2倍程度で、やはり不安が増大しつつある。
既に銀行支援のために受け入れ担保の基準を緩和し、寛大な条件で低利の資金を融通しているECBとしては今、不良債権を買い取る態勢にあるかどうかが問われているかもしれない。
一部のエコノミストは、新型コロナ大流行の結果生じた不良債権をECBのバランスシートに移管する措置は強力なメッセージになると主張する。もっともECBには銀行監督の任務が与えられている点からすると、実現は難しそうだという。
インドスエズ・ウエルス・マネジメントのグローバル・チーフエコノミスト、マリー・オーエンス・トムセン氏は「新型コロナ危機が長引くほど、貸し出し債の回収不能リスクは増大する。ECBが不良債権を買い取る図は自分に想定できない。ただし、銀行監督者としての立場から、銀行に対し、自行が抱える問題に対処するよう強く働き掛けることが可能なのは確かだ」と指摘した。
(5)ECBは緊急の債券買い入れでも情報を透明化できるか
ECBは従来の債券買い入れプログラムについては、購入した債券の内容を公表している。ただしパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)はこれに該当せず、透明性向上を迫られるかもしれない。
PEPPの透明性が高まれば、利回りが再び上昇しているイタリア債の信認を下支えする一助になり得る。
ピクテのデュクロゼ氏は、経済、金融、政治の面で不確実性が増大している現在の環境では、PEPPの透明性欠如によって、ECBの支援があるとかないとかの「陰謀論」を広げる恐れがあると警鐘を鳴らしている。
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